賃料(家賃)の値上げはどこまでできる?交渉方法や判例をわかりやすく解説!
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目次[非表示]
- 1.賃料(家賃)の値上げは可能?
- 1.1.賃料はどこまでできる?
- 1.2.賃料増減額請求権とは?
- 1.3.賃料不増額特約とは?
- 1.4.借地借家法とは?
- 2.賃料(家賃)の値上げで起こりうるトラブルと対処法
- 2.1.値上がり分の支払の拒否
- 2.2.賃料全額分の支払の拒否
- 2.3.値上がり分を理由にした解約
- 2.4.解約手続き前の夜逃げリスク
- 3.値上げ時の注意点と法的手続き対応
- 3.1.家賃値上げの「正当な理由」の提示
- 3.2.契約書への記載
- 3.3.調停前置主義の対応
- 3.4.訴訟対応
- 3.5.弁護士への依頼
- 4.賃料(家賃)の値上げに関する判例
- 4.1.値上げが可能だった判例
- 4.1.1.判例①賃料の増減額請求権に関する借地借家法の規定は強行規定であり、「消費者物価指数が下降しても賃料の減額はしない」とする旨の特約がある場合でも、賃料の増減額請求権の行使が妨げられることはないとした事例
- 4.2.値上げが不可能だった判例
- 4.2.1.判例①宅地並み課税の税負担は、値上がり益を享受している農地所有者が資産維持の経費として担うべきと解され、小作料は農地の使用収益の対価であることから、小作地において固定資産税等の宅地並み課税を理由とする小作料の増額請求をすることはできないとされた事例
- 4.2.2.判例②借地人の供託した賃料額が、借地法12条2項の相当賃料と認められた一事例
- 4.2.3.判例③賃借人が複数の共同賃借人であるときにおいて、賃貸人が借地法12条に基づく賃料増額の請求をする場合は、賃借人全員に対し増額の意思表示をする必要があり、その意思表示が賃借人の一部に対してされたにすぎないときは、これを受けた者との関係においてもその効力を生じないとされた事例
- 5.まとめ
賃料(家賃)の値上げは可能?
家賃を上げたいと思っている大家さん
家賃を上げたいけど躊躇ってる大家さん
こちらの記事では、家賃の値上げについてご紹介しています。
賃料はどこまでできる?
法律で家賃の増額は可能と認められているため、大家さん自身の判断で家賃の値上げをすることは可能です。
賃料増減額請求権とは?
賃料増減額請求権とは、借地借家法第32条に定める「借賃増減請求権」のこと。現在支払っている、あるいは受領している賃料が近隣相場と比べて不相当と思えば、賃貸借契約上の当事者は相手方に対して賃料の増額・減額を請求できるという権利です。
引用:CBRE 不動産用語集 賃料増減請求権
賃料不増額特約とは?
不増額特約に関しては,借地借家法(11条1項但書及び32条1項但書)に規定があります。その規定内容は,当事者の間で一定期間賃料を増額しない合意がある場合には,その合意に従うというものです。例えば,賃料を5年間据え置くという特約(合意と同義だと考えていいただいて構いません。)が存在する場合には,従前の賃料を不相当とする事情があったとしても,その期間内は賃料増額請求は認められないことになります。 もっとも,不増額特約の期間がかなり長期にわたるもので,他方その間に経済的事情が激変した場合には,その激変が特約当時の当事者の予測を大きく超え,その特約の拘束力をそのまま認めることが著しく公平に反する認められるときに限り,不増額特約があったとしても「事情変更の原則」により増額請求ができるとした裁判例(横浜地判昭和39年11月28日)があります。
したがって,不増額特約が常識の範囲内であれば,当事者はその合意に拘束されることになりますが,あまりにも常識とかけ離れた合意内容である場合には,当事者は合意に拘束されないことになります。
引用:弁護士法人 朝日中央総合法律事務所 賃料増減額に関する当事者の合意の拘束力
借地借家法とは?
法的弱者である借主を保護するために、民法よりも手厚く保護できるように定められた法律です。
引用:Foresight 宅建・宅地建物取引士通信講座
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賃料(家賃)の値上げで起こりうるトラブルと対処法
賃料の値上げをした場合に起こりうるトラブルをご紹介します。
値上がり分の支払の拒否
賃料を値上げした場合、借主は「値上がり分の支払の拒否」をする可能性が高いです。
支払いを拒否されてしまった場合に対応する方法として、強制的に支払いをしてもらおうと思えば、法的処置を取らざる負えなくなります。しかし、法的処置を取ると、お互いにとって大きな負担になります。
また、合法的な値上げでないと、法的手続きにおいても、値上げした賃料を認めてもらえないケースもあります。
賃料全額分の支払の拒否
滞納を繰り返している借主だと、賃料の値上がりを伝えただけで、強く反発し、賃料全額分支払いを拒否してくる可能性があります。
このような場合は、賃貸借契約を解除できる可能性はありますが、支払いを拒否されている間は、大家さんの元に1円も入ってきません。
値上がり分を理由にした解約
例えば、値上がりのタイミングが更新時期に重なった場合、もっと安い賃料の物件を探そうと契約解除されてしまう可能性があります。
すぐに次の貸主が見つかるのであればいいですが、すぐに見つかるとは限らず、空室の間は賃料が入ってこなくなります。
解約手続き前の夜逃げリスク
借主が家賃滞納の常習犯であると、賃料の値上げを知り、そのまま解約手続きをせずに夜逃げしてしまう場合もあります。
家賃滞納を繰り返している時点で、悪いことをしている自覚はありません。
賃料が値上げしたら、さらに支払えなくなってしまう、滞納分も払えない、と自暴自棄になってしまうこともあります。
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値上げ時の注意点と法的手続き対応
家賃値上げの「正当な理由」の提示
家賃を値上げする場合は、借主に正当な理由を提示しなければなりません。
・土地建物に対する税金などの負担が増えた
・経済事情の変動(土地建物の価格上昇など)
・近隣の同じような物件の家賃よりも安すぎる
引用:借地借家法32条1項
上記3つの条件以外にも、やむを得ない事情があれば、正当な理由として認められる場合があります。
契約書への記載
家賃を値上げする可能性があることを事前に契約書に記載しておかなければなりません。
家賃を値上げする場合は、大家さんと借主の合意が必要になります。
契約書に家賃値上げについての記載がない場合、大家さんが正当な理由として家賃値上げを借主に提案して拒否されてしまうと、合意は成立しません。
調停前置主義の対応
調停前置主義とは、家賃の値上げや値下げに関する問題を法的手続きで解決する場合、訴訟ではなく、まず調停の申立てをしなければならないことを言います。
引用:民事調停法第24条の2
調停では当事者や裁判官、書記官などの他に、2名以上の調停員を民間から選出し同席してもらいます。
そして、知恵を出し合いながらトラブル解決に向けた話し合いを行います。
調停は、「原告VS被告」のような対立関係ではなく、当事者の話し合いで解決を目指すものです。
訴訟対応
調停で話し合いが終わらなければ、訴訟に発展します。
訴訟では、大家さんの主張の正当性を、証拠を元に証明する必要があります。
弁護士への依頼
調停では、家賃トラブルに詳しい経験豊富な弁護士を代理人に立てましょう。
大家さんの目標は、家賃を希望の値段まで値上げすることです。
そのためには、「値上げに法的な合理性があることを証明すること」が必要です。
借主を説得させるためには、相手を説得させる力がある弁護士であることが重要です。
訴訟に移行した場合、裁判実務のない大家さんが弁護士を立てずに戦うことは不可能に近いため、経験豊富な弁護士を代理人に立て、訴訟で勝つ準備をしましょう。
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賃料(家賃)の値上げに関する判例
賃料の値上げに関する判例を、値上げが可能だった判例と値上げが不可能だった判例に分けてご紹介します。
値上げが可能だった判例
判例①賃料の増減額請求権に関する借地借家法の規定は強行規定であり、「消費者物価指数が下降しても賃料の減額はしない」とする旨の特約がある場合でも、賃料の増減額請求権の行使が妨げられることはないとした事例
建物の所有を目的とする土地の賃貸借契約において賃料を減額しない旨の特約が存することにより賃料減額請求権の行使を妨げられることはないとされた事例です。
引用:一般社団法人 不動産適正取引推進機構 最高裁判例検索結果
値上げが不可能だった判例
判例①宅地並み課税の税負担は、値上がり益を享受している農地所有者が資産維持の経費として担うべきと解され、小作料は農地の使用収益の対価であることから、小作地において固定資産税等の宅地並み課税を理由とする小作料の増額請求をすることはできないとされた事例
小作地に対する宅地並み課税により固定資産税等の額が増加したことを理由として小作料の増額請求をすることの可否についての事例です。
引用:一般社団法人 不動産適正取引推進機構 最高裁判例検索結果
判例②借地人の供託した賃料額が、借地法12条2項の相当賃料と認められた一事例
借地人の供託した賃料額が借地法一二条二項の相当賃料と認められた事例です。
引用:一般社団法人 不動産適正取引推進機構 最高裁判例検索結果
判例③賃借人が複数の共同賃借人であるときにおいて、賃貸人が借地法12条に基づく賃料増額の請求をする場合は、賃借人全員に対し増額の意思表示をする必要があり、その意思表示が賃借人の一部に対してされたにすぎないときは、これを受けた者との関係においてもその効力を生じないとされた事例
共同借地人の一部の者に対してされた借地法一二条に基づく賃料増額請求の効力についての事例です。
引用:一般社団法人 不動産適正取引推進機構 最高裁判例検索結果
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まとめ
賃料に値上げは、法律的に可能ですが、値上げをしたことで、借主との間にトラブルが起きる可能性もあります。
賃料を値上げして、トラブルが起きた場合は、話し合って解決する方法が一番ですが
話し合いをしても解決できない最悪の場合は、法的手続きを取らなければなりません。
もしそうなった場合には、家賃トラブルに詳しい経験豊富な弁護士さんを代理人に立てて、訴訟に向けての準備をしましょう。