知っておきたい空室対策と原状回復の基本
賃貸経営をおこなううえで避けられないもののひとつが、退去後の「原状回復工事」です。
空室がつづくと家賃収入が得られないため、できるだけ早く原状回復工事を終わらせたいところですが、入居者がいない状況で物件室内を見直すのによい機会でもあります。
今回は原状回復工事の基本や気をつけたいポイント、そして空室対策方法について解説します。
ぜひ、当記事を参考に効率よく原状回復工事をおこなってください。
目次[非表示]
- 1.なぜ空室になってしまうのか
- 1.1.家賃が相場を大幅に上回っている
- 1.2.仲介会社への募集活動が不足している
- 1.3.設備が不足している
- 1.4.外観や内装に古さが見られる
- 2.空室対策に効果的な原状回復とは
- 2.1.原状回復における基本の3項目
- 2.2.原状回復の方針を固める
- 2.3.費用対効果をじっくり考える
- 2.4.設備の見直しも忘れずに
- 3.原状回復費用の負担割合は明確にしておく
- 4.共用部のリフォームは空室対策になる?
- 5.原状回復以外にできる空室対策
- 5.1.退去予定の事前把握
- 5.2.外壁塗装工事をおこなう
- 5.3.ポータルサイトへの物件掲載内容の見直しをおこなう
- 5.4.長期入居者への特典
- 5.5.契約更新ごとの家賃の割引
- 6.費用対効果の高い原状回復で効果的な空室対策をしよう
- 7.この記事を読んだ方に人気のお役立ち資料一覧
なぜ空室になってしまうのか
効果的な空室対策は、空室になる要因を突き止めたうえで適切におこなう必要があります。賃貸物件が空室になる理由として、以下の状況が考えられます。
家賃が相場を大幅に上回っている
賃貸物件の家賃設定が周辺の相場から逸脱しすぎていると入居者に敬遠されてしまいます。
また最近の賃貸物件探しはインターネットでおこなうのが一般的です。入居希望者は、家賃などの検索条件で物件を探すので、あまりにも相場から離れた家賃の物件は検索結果から外れてしまい、候補として目に留まることすらなくなってしまいます。
しかし、家賃を下げすぎてしまうとローン返済などのランニングコストの支払いがきびしくなってしまい、健全な賃貸経営がおこなえません。
家賃は、収入と支出のバランスを考えたうえで、周辺の家賃相場を考慮した適正な額に設定しましょう。
仲介会社への募集活動が不足している
入居者募集を仲介会社に委託している場合、できるだけ多くの入居希望者に自身の物件を紹介してもらうことが空室対策につながります。
しかし、仲介会社にしてみれば、セールスポイントのよくわからない物件は紹介しづらいかもしれません。入居希望者に自身の物件を紹介してもらうには、仲介会社に自身の物件のよさを知ってもらう必要があります。
そのため仲介会社に入居者募集を依頼するときには、物件情報や募集条件など、しっかりとアピールして物件のよさを印象づけましょう。
そうすることで入居希望者に対して、自身の物件を紹介してもらえる可能性が高くなります。入居希望者に物件の存在を知ってもらえれば内見の回数も増え、成約につながる確率も上昇するのです。
設備が不足している
空室期間が長引く要因としては、賃貸物件に導入されている設備が、トレンドや入居者ニーズにあっていないことがあげられます。その場合、人気の設備を導入することが空室の改善につながります。
ただ、設備の追加はある程度の費用が発生します。そのため、本当にニーズのある設備を厳選して導入することをおすすめします。
引用:全国賃貸住宅新聞『コロナ下でニーズが増えた設備』
上記は、全国賃貸住宅新聞がおこなった設備ランキングです。1位、2位をインターネット設備が、3位、4位が来訪者と直接会わずにすむ宅配ボックスとモニター付きインターホンと、コロナ下のなか自宅で快適に過ごすために役立つ設備のニーズが高いことがわかります。
設備を導入する場合は、こういったランキングを参考にしたり、不動産管理会社にヒアリングしたり、時世や入居者のニーズに合致した設備を選びましょう。
外観や内装に古さが見られる
賃貸物件の第一印象は建物の外観で決まります。また、外観がきれいでも室内の内装や間取りに古さが感じられるのはマイナス要因となり、入居者に選ばれにくくなってしまいます。
建物が老朽化するのは仕方ないですが、定期的に外壁工事をおこなったり、室内をリフォームしたり、建物全体をメンテナンスすることで空室期間の短縮が可能です。
空室対策に効果的な原状回復とは
原状回復とは、退去者が出た場合、次の入居者を募集する前に室内の傷んだ箇所をきれいな状態に戻して、入居付けをしやすくするためにおこなう空室対策方法のひとつです。そのため、通常の原状回復工事だけでなく、空室対策としてより多くの工事をしておきたいとの考えかたもあります。
ただし、原状回復工事には費用がかかるため、費用対効果を考慮して、無理のない範囲でおこなう必要があります。
原状回復における基本の3項目
原状回復工事は下記の3項目が基本になります。
・クロスの貼り替え
・床の補修
・ハウスクリーニング
この3項目をできるだけ低コストで、かつスピーディにおこなうことで入居者の早期獲得につながります。
なお、基本の3項目の工事と同時に空室対策を意識した工事をおこなうことも可能ですが、その際はコストも時間もかかるため、スケジュールと費用対効果を考慮するとよいでしょう。
原状回復の方針を固める
退去者が出たら原状回復工事をおこないますが、その際、無難に基本の3項目の原状回復ですませるのか、または家賃アップを狙った+αの設備を導入するのか方針を決定しましょう。
なお、賃料アップを狙った設備を導入するのであれば、ターゲットとなる入居者層を想定することで、どういった設備を追加するのかが決まります。たとえば独身女性をターゲットにするのであれば、防犯を意識した設備の導入を検討するなどです。
費用対効果をじっくり考える
入居者が退去するたびにおこなう原状回復工事は、できるだけ少ない費用で、もっとも効果を得られることを念頭においておこないましょう。
たとえば壁紙を張り替える場合、室内全部の壁紙を張り替えると多額の費用がかかります。しかし、壁紙がそれほど汚れていない状態であれば、クリーニングでは落としきれなかった汚れのある壁紙だけ張り替えれば大幅なコストカットにつながります。
原状回復が必須な箇所とそうでない箇所を正確に判断し、費用のメリハリをつけることが大事です。
設備の見直しも忘れずに
入居者のいない原状回復工事中は、設備の見直しに適したタイミングです。室内の設備に不備はないか、しっかり確認しましょう。
水道のパッキンが古くなって水漏れしていないか、備えつけの照明器具は電球や蛍光灯が切れていないかなど、こまかな点もチェックすることをおすすめします。
原状回復費用の負担割合は明確にしておく
入居者とオーナーの原状回復費用の負担割合に関しては、国土交通省『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』に基づいて以下のように定義されています。
原状回復とは、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、 善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること
引用:国土交通省『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』
簡単にいうと、入居者が普通に生活するなかでできた傷や汚れに対する原状回復費用はオーナーが負担し、それ以外にできた損傷については入居者が負担するのが基本ルールとなります。
トラブルにならないためにも、あらかじめ『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』を基にオーナーと入居者との間で負担割合を明確にしておくことをおすすめします。
共用部のリフォームは空室対策になる?
共用部のリフォームなどは、空室対策として大きな効果が期待できます。なぜなら、内見に来た入居希望者は居室と外観だけでなく共用部もかならずチェックするからです。
ここでは好印象を与える共有部のつくりかたを解説します。
ごみ置き場や駐輪場はリフォームで印象がよくなる
内見者が共有部のなかでとくにチェックするのが、ごみ置き場です。ごみ置き場を見ると、その物件の管理状況やほかの入居者のマナーがわかります。
ごみ収集日ではないのにゴミ袋がいくつも出されていたり、「回収できません」という紙が貼られた粗大ごみが放置されていたり、掃除が行き届いていないごみ置き場は、内見者に悪印象しか与えません。
また自転車置き場も内見者のチェックポイントのひとつです。使っていない放置自転車がたくさんあったり、駐輪場がゴミだらけだったり、駐輪場が荒れている物件には住みたいと思わないでしょう。
ごみ置き場や駐輪場を清潔に保つには、日頃からていねいな清掃をおこない、入居者への使用ルールの呼びかけが大事です。
また駐輪場を屋根付きにしたり、ごみ置き場を24時間利用可能にしたり、見た目や清潔感が増すリフォームをおこなうことで、内見者への印象がよくなるだけでなく、既存入居者の満足度アップにもつながります。
共用廊下などは定期的な清掃を欠かさない
共有部で忘れてはいけないのがエントランスや共用廊下・階段の清掃です。外観の次に内見者が目にする部分なので、こちらも日頃からていねいな清掃を心がけましょう。
また通常の清掃に加えて、定期的にエントランスや共用廊下、外壁のクリーニングをおこなうと、より空室対策に効果的です。
原状回復以外にできる空室対策
原状回復は、次の入居者に選んでもらうためにおこなう空室対策のひとつですが、そのほかにも空室対策方法にはさまざまな種類があります。
ここでは空室対策と効果的なアイデアを紹介します。
退去予定の事前把握
退去者が出た場合、退去手続きから次の入居者が決まるまでの期間が短いほど、賃貸物件の稼働率が上がって収入も増えます。そのためには、できるだけ早く退去情報を得て、効率よく入居者募集や原状回復工事をおこなう必要があります。
入居者の退去状況を事前に確認するためは「入居者アンケート」などの活用がおすすめです。契約書では1ヶ月前の通知で解約できるという項目が一般的ですが、「退去の3ヶ月前までに知らせてくれたら特典(金券など)を差し上げます」とアンケートを通じてアナウンスをすることで、いち早く退去状況を把握できます。
外壁塗装工事をおこなう
内見者の物件に対する第一印象は建物の外観で決まります。外観が美しければ好印象ですが、建物の外壁が汚れていたり、ヒビ割れやタイルがはがれていたり、「外観が残念」な状態では内見者に敬遠されてしまいます。
また外壁の傷は放置しておくと建物の基礎部を傷める原因にもなります。
内見者に選ばれるためにも、空室対策として物件価値を維持するためにも、定期的に外壁の清掃や修繕をおこないましょう。
ポータルサイトへの物件掲載内容の見直しをおこなう
賃貸物件探しのトレンドはインターネットを利用して不動産ポータルサイトなどで住みたい賃貸物件の条件で検索し、その結果から内見して最終的に1軒を選びます。
検索結果として表示されないと物件の存在を知ってもらうことすらできません。また、実物がどんなに優良物件であっても、ポータルサイトに掲載されている物件情報や画像に魅力がないと内見もしてもらえません。
そのため、ポータルサイトに掲載する物件情報は非常に重要です。空室がなかなか埋まらないときは掲載内容を見直してみることをおすすめします。
まずは所有物件の基本情報や設備が正しく登録されているか、ポータルサイトの検索結果にきちんと反映されているか確認しましょう。
とくにポータルサイトを利用するうえで画像の掲載はかかせません。視覚に訴えることで入居希望者に興味を持ってもらえるため、掲載限度枚数いっぱいまで、室内や設備が鮮明に写っているものをできるだけ多く掲載しましょう。
また、動画も物件のイメージがより伝わりやすいので掲載することをおすすめします。
長期入居者への特典
退去を抑止し、長く入居してもらうことも空室対策方法のひとつとして欠かせません。
長期入居を促す方法として効果が期待できるのが「更新時の特典」の付与です。
入居時や更新時期の数ヶ月前あたりに「更新契約で特典を差し上げます」などのお知らせをしておくことで、退去を考えている入居者の引き留めにつながる可能性が高まります。
特典の内容は、更新料の割引や商品券や家電をプレゼントする方法があります。また、テレビモニター付きインターホンなどの人気設備の取り付けや設備のクリーニングサービス(エアコンやキッチン、浴室など)も喜ばれるでしょう。
ここでのポイントは、長期入居者ほど高額(または欲しい)特典が与えられるシステムにしておくことです。長期入居すればするだけ優遇されるため、さらなる入居継続が期待できます。
契約更新ごとの家賃の割引
退去の抑制方法として、契約更新ごとに家賃を減額するとより効果的です。
空室対策としての家賃値下げは、収入が減少し、場合によっては賃貸経営の継続が困難になるおそれもあります。そのため、家賃の値下げは空室対策方法の最終手段です。
しかし、契約更新時の家賃の減額は、賃貸経営に支障が出ないよう計画的におこないます。
一般的に家賃の下落率は10年で約10%といわれます。
そこで契約の更新時に値引きする家賃額を決める際、10年後の家賃額が10%程度のダウンになるように調整するのです。
家賃10万円の場合、更新時に1,000円ずつ値引きすると11年後の家賃額は9.5万円です。(2年更新の場合)
また10年間の満室時家賃収入は、値引きしなかった場合は2,400万円、値引きした場合は2,352万円になります。
値引き時のほうが多少収入は少ないです。しかし、値引きしなかった場合は途中で退去があって空室期間ができたり、それにともない原状回復工事をおこなったり、2,352万円を下回る収入になる可能性も考えられます。
「たら・れば」になってしまいますが、家賃の値引きをすることで10年間退去なしで賃貸経営をおこなえるのは、メリットであると考えられるでしょう。
費用対効果の高い原状回復で効果的な空室対策をしよう
原状回復工事は賃貸経営をおこなううえで、かならず発生するもののひとつです。空室対策としても欠かせない工事ですが、費用対効果を念頭においておこなうことが重要です。
また、原状回復工事と並行して通常の空室対策もすすめ、できるだけ早く空室を埋める工夫をすることで健全な賃貸経営につながります。